飛行機関連

「ハドソン川の奇跡」の機長は英雄か?

パイロットの観点からニューヨークのハドソン川に着水した事故について考えてみました。

離陸直後のバードストライク(鳥との衝突)はこれ自体、さほど珍しい事ではありません。

私自身、エンジンカウル(エンジンカバーの一番先端部分)への衝突や(着陸後、血のりがついていた事でわかりました)や機体への衝突は何度か経験しています。
幸い私の場合は大事に至らなかったのですが、他のパイロットのケースではエンジン故障で戻った事も何度か聞いています。

大体、遭遇するのは数羽程度の事が多いのですが、群れにあたるとハドソン川の様なケースにもなりかねません。

こういう意味では前回2発エンジンの飛行機が良いのか、4発エンジンの飛行機が良いのか書きましたが、4発エンジンの方が安心感はありますね。

まず自分があのケースに遭遇したらどうするか考えてみました。

やはりハドソン川に降りたでしょうね。

離陸直後にエンジンの全出力を失った場合、ほぼ離陸した空港に戻る事は不可能です。
戻ろうとして墜落したケースは小型機を含めて多くあります。

あの場合は都会の真ん中でしたのでもし空港に戻る決断をしてしまった場合は地上の人を巻き込んで大惨事になった可能性があります。

要するにハドソン川に不時着するしか方法がなかったと思われます。
あとはうまく行くか行かないかの世界です。

我々は不時着水の地上教育は受けていますが、模擬飛行装置で訓練をしているわけではありません。
通常は海面に降りる場合を習いますが、海はうねりがありますのでそのうねりを判断してそれに並行に降りるように習っています。

不時着水する場合、海水面と機体が並行になるように海水に接触しないと簡単に飛行機はひっくりかえってしまいます。
これはうねりのある海水面では非常に難しいことです。
たとえば右の翼が先に海水に接触した場合、そこを支点として飛行機が回転してしまい、傾いたまま海水に突っ込んでしまい大破すると言う事になります。

そういう意味では今回の事故はほとんどうねりのない川であった事が不時着水に成功した大きな要因になっています。

今回の事故では一人の死者も出さなかったと言う意味では奇跡ですが、それを可能にしたもう一つの要因はハドソン川にはたくさんのフェリーが運航しており、その船がすぐに救助に行けた事が大きいと思います。

飛行機はある程度の時間は浮いていられますが、人里離れた誰もいない川に不時着水しても助けに来るものがいなければ、いずれは沈み、乗客は川に投げ出されてしまいます。(ライフラフトで脱出することも可能ではありますが状況によります。)

事故は上記に書いた事やいろいろなプラスの要因が重なり、結果的に死者ゼロの奇跡が起こったと思われます。

機長は良い判断とその卓越した操縦技術でこの困難を乗り切ったと言う意味では良くやったと思いますし英雄と言われてもおかしくはありません。

ただパイロット的に見るとあれしか方法はなく、必然と言えばそうとも言えます。
パイロットの仕事はうまくいって当たり前の世界です。
結果的に当該機長が英雄と言われても私はおかしくないと思いますが、パイロット的にはやるべきことをやったにすぎないのです。

先日、ハドソン川の奇跡の映画を見てきました。
パイロット的に見ると内容におかしなことはたくさんありますが、エンターテインメントとして考えるとその演出は素晴らしいと思います。
一つだけおかしな点を挙げると公聴会の場で模擬飛行装置を使い事故と同じ状況を作り出し、近隣の空港への着陸を試みますが、最初は着陸に成功します。
そこで機長は事故が起こってもすぐに判断できるものではなく、判断するまでの時間を考慮すべきだと主張します。
その時間を加味して近隣空港へ着陸を試みるとことごとく失敗し、機長がハドソン川に着陸したことが正解であったことが実証され大拍手が起こりました。
これはまさに映画を面白くさせる演出です。
このような検証は公聴会で行うべきものではなく、真っ先にNTSB(アメリカの国家運輸安全委員会)で解析しているはずです。

でも裏を知っているプロが見ても映画は面白かったですね。
トム・ハンクスは好きなな俳優の一人です。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。