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モスクワの事故、飛行中に速度計が故障したらどうなるか・・・?

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2019年5月5日、ロシア、モスクワのシェレメチェボ空港でアエロフロートの航空機(スホイ・スパージェット100型機)が緊急着陸した直後炎上し多数の死傷者を出しました。

報道によると離陸後に雷を受け速度計が故障、機体が機能不全に陥った事が報告されています。
動画を見ると着陸時に異常なほど早いスピードで進入している事がそれを伺わせています。

飛行機に雷が落ちると・・・。

まず、飛行機に雷が落ちてこのように正常なアプローチができないほど機能不全に陥るかと言う点ですが、一般的に言えば飛行機に雷が落ちても安全だと言われています。

私も過去に何度か飛行中に落雷を受けた経験がありますが、計器に異常が発生したことは一度もありません。(今主流のハイテク機でも・・・)

雷を受けると閃光と共にドンと言う音と衝撃を受けます。
通常は主翼や尾翼に装備されているStatic Discharger(放電索・・ほうでんさく)と言うロープ状の物や機体の一部から放電していきますが、機体には雷が落ちた場所から抜けた場所に電流が通った後が生々しく残る場合があります。

私も雷がレドーム(機首の先端)に落ち、エンジンのパイロン(翼にエンジン吊り下げている部分)から抜けていった筋状の痕跡を見たことがあります。

この様に機体には多少のダメージを受けることはありますが、運航不能に陥る事はまずありません。

最近の飛行機はAI化が進み電子部品が多く搭載されていますので各航空機製造会社は今以上に雷への対策はしていると思います。

今回のスホイ・スパージェット100型機と言う航空機はあまり聞いたことがありませんが、実際に雷によって運航不能に陥ったという事であればその原因と対策は十分にされなければなりません。

速度計が故障するとどうなるか?

どの様な飛行不能に陥ったのか詳細には報告されていませんが、速度計が故障したという事は報道されています。

それでは速度計が故障した場合、正常に飛べないかと言うとそうではありません。

速度計が故障した場合、飛行機の姿勢(Pitch)やPowerのセット、降下率等からおおよその速度がわかります。

Boeingの飛行機の場合ですが、そのため(速度計不作動時)のIAS DISAGREE or Airspeed Unreliableと言うチェックリストや具体的なPitch、Power、降下率の数字が書かれたマニュアルも存在します。

以下はB747-400 のデータです。

例えば10000ft、290ktで水平飛行したい場合、重量が65万ポンドの場合、Pitchを3度、N1(エンジンの回転数)71.4%にセットすればおおよそ290ktで飛べるといった具合です。

上昇と降下はPowerを一定にして、Pitchと上昇率と降下率で所望の速度が保たれます。

アプローチ(空港への進入)はどうかと言うとこれは重量に応じたPitchとPowerの量で速度は大体わかります。

Flap(着陸時に使用する高揚力装置)30度でILS(精密進入)の進入角3度では大体Pitch2度、エンジンの回転数を63%N1にセットすれば大体135kt(243㎞)前後は確保されているはずです。

この様に速度計が故障しても正常に近い着陸は可能なのです。

しかし今回の画像を見てみるとかなりのスピードでアプローチしています。
多分200kt(360㎞)は超えていると思われます。

通常の着陸時のスピードは大体の飛行機において130kt(234kt)、早くても150kt(270kt)ですので100㎞以上早いのではと思います。

複合的な故障の可能性?

これから推測すると速度以外の複合的な故障があったのではという事が想像されます。

今回、この事故を受けて読者の方から

「もし速度計が完全に故障した場合、パイロットは体感だけでもある程度適切な直陸速度は分かるものなんでしょうか?」

と言ったご質問を受けました。

このご質問に関して以下の様にお答えしました。

「結論を申し上げますと地上に近づけばいつものスピードより速いか遅いか判断はある程度できます。
しかし高度が上がれば上がるほどスピードを感じるための相対的なものが周りになくなるのでスピード感はほとんどなくなります。
車の運転でスピードを感じるのは回りの景色が後ろに流れていくからですね。」

通常135ktでアプローチしているパイロットが例えば145ktでアプローチした場合、10kt(約18㎞)早いわけですが、このくらいのスピードの差でも滑走路に近づけば少し早いなと言う感じはわかります。

ですので今回の事故の場合、当該パイロットは当然異常に早いスピードである事は認識できたはずです。

動画を見ていただくとわかりますが、とにかく異常に早いですね。

その原因としてはあくまでも一例ですが、以下のようなことも考えられます。

例えばFlap(高揚力装置)を下すことが出来ない場合、通常のスピードにB747-400では25ktプラスして着陸を試みるわけですが、その場合アプローチの速度は160kt(288㎞)くらい、
さらに燃料を投棄できず超過重量でアプローチせざるをえない場合ではさらに30kt位プラスで190kt(342㎞)、

この様な状況であればあのようなスピードになる可能性があります。
(それにしてももう少し早い気が・・・)

しかしあのようなスピードだとたとえうまく着陸できたとしても滑走路内で停止する事は出来なかったのではと思います。
多分、OverRun(滑走路逸脱)でしょう。

また動画を見てみると一度滑走路に接地した後、バウンドしてからもう一度滑走路に接地した様です。

あの様な速いスピードだとエレベーターの効きが極端に良いので微妙な接地操作を行わなければならず、ちょっとした力の入れ具合ですぐに飛行機は浮いてしまいます。

実はあの様子を見て以前成田で起こったFEDEXの事故を思い起こしました。

 

どうですか?似ていませんか?

この2回目のバウンスの時に機種を上げた形になっているのですが、その時に機首を上げたままGo-Around(着陸のやり直し)を行えばこのような事故にはならなかったと推測されます。(このケースの原因は強風による着陸の失敗です。)

今回の事故の場合も飛行機がバウンスした後、機首を下に下げ再度接地していますが、この時に機首を上げて着陸をやり直せば少なくともあの場面では事故にならなかった様に思います。(次の着陸が成功するかは別として)

この様に着陸間際での機首下げは非常に危険なのです。

機首下げにより飛行機は接地時に非常に強い衝撃を受け、Landing Gear(着陸装置)が翼を突き破り、燃料が流出して火災が発生したとの報道もあります。
多分、その通りでしょう

かなり難しい状況の着陸であったのは間違いありません。
もしかしたらうまく接地出来たら滑走路逸脱だけで済んだ可能性もないではありませんが、あくまでも想像ですのであの場面でパイロットは最善を尽くしたのでしょう。

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