飛行機関連

飛行機の揺れは怖くない?!

飛行機が苦手な人にとって揺れは怖いもののひとつ・・・と言うか最大なものと思います。

私自身はどうかと言うと・・・そういう人たちに対して不謹慎かもしれませんが、旅客として搭乗しているときは多少の揺れはゆりかごのようで良く眠れ、心地良くさえ感じる時があります。
私はもともと飛行機に対して憧れこそあれ、恐怖感をあまり感じない方でした。
鈍感なのでしょうかね?

ともあれ飛行機の揺れについてパイロットとしてどのように考え、どの様に対処しているかご紹介致します。

英国の旅客機BOACのB-707のケース

先に申しあげておきますが、旅客機が乱気流で墜落したケースはほとんどありません。
ほとんどと言うのは残念ながら1件思い浮かぶからです。
飛行機嫌いの人には火に油を注ぐ様でこれを申し上げて良いのか迷いましたが、ご存知かもしれませんので記述しておきます。

私の記憶では大昔(1966年)に当時の英国の旅客機BOACのB-707が富士山の山岳派で空中分解して墜落したケースがあります。
この飛行機は香港に向かう途中、今では考えられませんがお客様のサービスとして
有視界飛行方式で富士山に向かったと言われています。(特定はされていませんが・・・。)

この事故の発生は3月ですが、冬場の日本上空には強い偏西風が卓越しています。
当然、この時も富士山上空に強い風が吹いていたと考えられます。

このような強風時、山の風下には強い渦上の乱気流(山岳派)が発生し、これが想定以上の強さになり空中分解に至ったと思われます。

現在では計器飛行方式で富士山から十分に離れ、また高高度を飛ぶようになっていますのでこのような事は起こりえませんし、Pilotも十分にその危険性を認識していますので乱気流が予想されるときは慎重な対処を行いますのでご安心ください。

揺れは雲の種類によって大きく変わる。

揺れは大気の擾乱によって起こされます。
当然、雲のあるところでは擾乱が発生していますので雲に入れば揺れます。
その揺れは雲の種類によって大きく左右されます。

一番激しいのはご存じのとおり積乱雲、俗にいう入道雲です。
この雲に入るとさすがに飛行機の安全は保障されません。

旅客機にはWeather Radar(ウエザーレーダー)と言う気象レーダーが搭載されています。
飛行中は常時作動していますが、このレーダーによって数百キロ先の積乱雲の存在を感知できますのでパイロットは事前にこのような雲を避ける事が出来ます。

従って積乱雲に入る事はありませんのでご安心ください。

夏場、気温が高くなり上昇気流が発生し空気の擾乱が大きくなると大気の状態によっては積乱雲のごく小規模な積雲と言う雲が発達します。
モコモコとした雲で綿雲とも言います。

この雲は単独で広範囲に発達しますが、飛行中この雲に入る時があります。
この雲は大きく発達すると積乱雲に発達するものもあるくらいですので空気の擾乱はそれなりにありますが、多少揺れるくらいで飛行には影響しません。

雲の種類は他にもありますが、揺れが大きいのは上記の対流雲と呼ばれるものがほとんどです。

梅雨の時によく見られるベタッとした層雲と言う雲は比較的空気の擾乱が少なく、あまり揺れない事が多いのです。
・・・が雲ですので多少の擾乱はありますので少し揺れる時もありますが問題ありません。

晴天乱流について

揺れの原因は雲の他に風の変化(強さや方向)で揺れる場合があります。
典型的なものが晴天乱流と言うものです。

たとえば日本から北米に行く場合、追い風を利用するために日本上空から太平洋上空に吹いている偏西風に乗るように飛行します。

偏西風は一般的にジェット気流と呼ばれるものですが、冬場では時速400㎞以上の風が吹いている場合があります。
この気流の本流に乗るのですが、その本流の両端には渦のような乱流が発生しています。

これは川の流れを考えればわかりますが、早い流れと遅い流れの境で渦を巻いているのを見たことがあると思います。
これと同じです。
この風の渦を通過するときに揺れが発生します。

太平洋上空で遭遇する揺れのほとんどがこの風の変化によるものです。

昔はこの晴天乱流を予報する事は難しかったのですが、最近ではその渦の強さ(風の変化の強さ)を数値で予報する事が出来ます。

フライトの前に運航管理者とともにこれから飛行する航路上の揺れに対して十分に検討しますが、その数値をもとに航路選定の段階でシビアタービュレンス以上の乱気流がある場合、その場所は航路から外されます。

またシビアタービュレンスまでは揺れないまでも多少揺れが予想される場所は大体わかりますので客室乗務員と十分に打ち合わせをしてフライトに臨みます。

揺れに遭遇したらパイロットはどう言う対処をするのでしょうか?

まずはスピードを落とします。
これは車がでこぼこ道を進むときにスピードを落とすのと似ています。
スピードを落とすことによって同じ揺れでも多少マイルドになります。

なかなか揺れが収まらない時は高度の変更を考えます。
大体2000ft(600m)上下に変えることが多いのですが、揺れが収まる事もありますが、そうでもない時もあります。

上記二つが揺れに遭遇した場合の処置です。

先ほどスピードを落とすと書きましたが、どこまで落とすのでしょう?

B747-400にはTurbulence Penetration Speed(直訳すると揺れを防止する速度)と言うものがあり巡航中は290kt~310kt or M.82~.85です。(高度によって速度計かマッハ計を使い分けます。)

揺れに遭遇した場合、巡航スピードから上記スピードのうち、遅いスピードに減速する事が多いです。
そのスピードは必ずVA(ブイエー)以下に設定されます。

VA(ブイエー)と言うのは設計運動速度と呼ばれるものですが、揺れを受けた時にこのスピード以下であれば飛行機がどのような荷重(揺れ)を受けても壊れる事がないスピードです。

言い換えると飛行機が揺れによりどのように翻弄されても壊れない、壊れる前に失速を起こす速度という事です。
(失速を起こしても回復操作で立て直すことが出来ますのでご安心ください。)

巡航速度はこのTurbulence Penetration Speedより若干早いか、重量や高度によってはこのスピードの範囲内に収まっていますので、たとえ飛行中強い揺れがあったとしても壊れることはありません。

とは言っても自然界の力は強大で時には予測できない凄まじい力で襲い掛かる事もあるかもしれません。
飛行機は機械ですのでそのような場合は壊れる可能性もゼロではありません。

しかし現代の揺れの予報技術は昔とは比べものにならないくらい進歩しており、そのような危険が予測される場所は飛行計画の段階で避けて飛行しますのでご安心ください。

同じ飛行機の中でも揺れの程度に差がある。

ちなみに飛行機の中で一番揺れが大きいところをご存知でしょうか?
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・・・・・
答えは客室の一番後方です。

私たちパイロットは揺れが始まると一番後方の客室に連絡して揺れがどの程度か確認します。
もし一番後方の客室の揺れが客室サービスができないほどであれば座席ベルト着用サインを付ける場合が多いですね。

理由は飛行機の重心位置は翼の近辺にありますが、一番後方の客室は重心から一番遠いからです。
重心から遠くなるとモーメントが大きくなりますので揺れが大きくなります。

それよりも揺れによって客室で怪我をしないように座席に座っている間は常にベルトは締めておいてくださいね。
揺れで飛行機が壊れる心配をする前にこちらの方が重要です。

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