飛行機関連

双発機の片側エンジン1基の飛行(ETOPS)

前回の記事でエンジン火災が起こり一つのエンジンが停止した状態の運航を書きました。

双発の飛行機にとって一つのエンジンが停まると残るエンジンは一つ、この状態こそ緊急事態なのですが、それでは残り一つのエンジンは停まる事はないのでしょうか?

残念ながら飛行機のエンジンも機械ですので絶対止まらないとは言い切れません。
これはもうエンジンの信頼性に基づく確率の問題になってしまいます。
この事はご理解いただけると思います。

それではエンジンの信頼性はどの位あるのでしょうか?

これについては双発機のエンジン1基での運航についてある指針があります。

昔、双発機は一つのエンジンが停まったら1時間以内に緊急着陸ができる空港が航路上になければなりませんでした。
この様な規定があるために双発機は太平洋を渡ることが出来ませんでした。

しかし技術の向上によりエンジンの信頼性が格段に上がり、この規定を超える運航が出来るようになりました。

これをETOPS(イートップス・・・Extended-range Twin-engine Operational Performance Standards)と言います。
これはエンジンが2基しかない旅客機でそのうち1基が停止した場合、一定時間以内に緊急着陸飛行場へ着陸が可能な航路であれば飛行できるというものです。

この一定時間がエンジンの信頼性の向上により格段に伸びてきたのです。

最初のETOPS運航はETOPS-120と言われるものでB767が初めて認定を受けました。
120と言うのは120分(2時間)と言う意味です。

この認定を受けた飛行機は航路上すべての地点で一つのエンジンにより120分以内に緊急着陸ができる空港がなければなりません。

次にETOPS-180(180分/3時間)がB777で認定されました。
これによりB777での太平洋横断が可能になりB747-400に代わり、B777がサンフランシスコやロスアンゼルス等へ投入されました。
この様な背景により現在ではB747-400の様な4発機より燃費等で経済性に優れたB777やB787の様な双発機が世界の空を席巻する様になります。

このETOPSは言い換えれば1発動機で飛行できる双発機運航の規定上の可能時間と言うことが出来ます。

現在、このETOPSの時間がどの程度まで拡大されているでしょうか?

ETOPS-240(エアバスA330)

ETOPS-330 (777-300ER、777-200LR、777貨物機、777-200ER with GEエンジン、B787)

ETOPS-370(エアバスA350-900)

なんと最大で370分(6時間10分)です。

言わばこれだけの時間、1発動機だけで規定上飛行が可能、それだけエンジンの信頼性が向上しているという証明になります。

誤解してほしくないのはこの時間を超えればエンジンが停まる可能性があるのかという事ですが、ETOPSはあくまでも安全性(一つのエンジンで飛行する場合のリスク)を考慮した規定上の時間ですのでこの時間を過ぎてももちろんエンジンが停まる訳ではありません。

一つのエンジンで何時間でも飛べる可能性は大きいですが、一つのエンジンが停まった場合、墜落しかありませんのでそのリスクをどこまで許容できるかと言うのがETOPSの時間です。

単発エンジンの飛行機は・・・。

ちなみに単発エンジンの旅客機はあまり見かけませんが、セスナの様な小型機はもともと1基しかエンジンがありません。
ETOPSも何もありません。

この場合は巡行中にエンジンが停まると滑空して適当な不時着場(畑や河川敷、もしくは滑走路等)に着陸しなければなりません。

上記理由により単発機で操縦免許を取る場合はエンジンをアイドルにしてエンジン故障を想定し、滑空して滑走路、及び選択した不時着上に降りる試験を必ず受けなければなりません。

滑走路に降りる課目は180 Spot LDGと言い、滑走路の着地点のアビーム(真横)でエンジンをアイドル、そのまま滑空して滑走路の指定した着地点に着陸しなければなりません。

エンジンの出力が使えませんので滑走路を見ながら高さを判定し、Flap(高揚力装置)を使用しフライトパスを調整して着陸します。

この課目は多分に感覚の世界になりますのでフライトセンスの良い人は何度か練習するとほぼ100%着陸できるようになりますが、風の影響をかなり受けますので難しい科目の一つとして訓練生を悩ましています。

不時着場への着陸はエンジン故障を想定した時に選択した滑走路以外の畑や河川敷等に滑空しながら風に正対して降りなければなりません。

この場合、実際に不時着できませんので最低安全高度(対地500ft…150m)以上で着陸復行を行い課目を終了します。

エンジンが二つ以上の多発機は上記の滑空による着陸の試験はありませんが、その代わり一つエンジンが故障した場合の着陸の試験を行います。

そもそもエンジンが二つ以上の多発機はエンジンがすべて故障した場合(滑空)の訓練もしていませんし、試験もありません。
その様なケースは想定していません。

エンジンは多いほど安全性は高いのか?

私の考えですが、エンジンは単発より双発、双発より多発(エンジン3基、または4基以上)の方がエンジン故障だけを考えた場合、安全性は上ではないかと思っています。

市場の原理で飛行機を飛ばすためにも経済性を考慮しなければなりませんので、燃費や運航面で有利な双発機を飛ばすことは致し方がないところもありますが、技術の向上によるエンジンの信頼性を信じるしかありません。

日本政府は政府専用機をB747-400からB777に変更しましたが、これを聞いたときに私は何故?と思いました。
要人を乗せるなら4発機の方が良いと思うのですが・・・。(B747-8の様な)

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